VC支援スタートアップは不正を犯しやすい? 英仏の研究が示す“成長神話”の落とし穴
VCから資金を得たスタートアップは不正を犯しやすい――。英仏の研究チームがその理由を分析。成長プレッシャーや投資家の黙認など、エコシステムの構造的な問題に迫る。
公開日時: 2026年8月2日 7:03 · 更新: 2026年9月27日 22:48
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VC(ベンチャーキャピタル)から資金を得たスタートアップは、そうでない企業よりも不正を犯す割合が高い――。英インペリアル・カレッジ・ロンドンと仏エムリヨン・ビジネススクールの研究チームが、こんな調査結果をこのほど発表した。研究者たちは、シリコンバレーの起業家がどのようにして不正に手を染めるのかを分析し、投資家がそのプロセスにどう関与しているかを明らかにした。
研究の背景と方法
研究チームは、シリコンバレーを中心とした米国のスタートアップ企業のデータを収集。VCから資金調達を行った企業と、そうでない企業を比較し、不正の発生率や種類、発覚のタイミングなどを分析した。また、VCの投資行動や企業との関係性も調査対象に含まれている。
不正の発生率と種類
分析の結果、VC支援企業は非支援企業に比べて、不正を犯す確率が約1.7倍高いことが判明した。特に目立ったのは、財務諸表の改ざんや投資家向け資料への虚偽記載など、資金調達に直接かかわる不正である。一方で、非支援企業に多いのは、脱税や横領といった古典的な不正だった。
さらに、VC支援企業の不正は発覚しにくい傾向があることも分かった。不正が発覚しても、非支援企業の方が重い処分を受ける傾向があり、VC支援企業は経営陣が交代するなど“軽い”ペナルティにとどまることが多い。これは、VCが投資先の経営陣を保護しようとするためではないかと研究者は推測する。
なぜVC支援企業は不正に走るのか
研究者がまず挙げるのは「成長への異常なプレッシャー」だ。VCは通常、数年で投資額の数倍から数十倍のリターンを求める。スタートアップは短期間で急成長を示す必要があり、売上やユーザー数の目標を達成するために数字を水増しする誘惑にかられやすい。特に、次の資金調達ラウンドが近づくと、そのプレッシャーはさらに強まる。
次に、シリコンバレー特有のカルチャーが挙げられる。そこには「フェイク・イット・ティル・ユー・メイク・イット(成功するまで偽り続けろ)」という言葉があるように、過大な主張や誇張が是認される風潮がある。アイデア段階の製品をあたかも完成したかのように見せることは、ある種の“起業家精神”として受け入れられている。しかし、この考え方が行き過ぎると、重大な不正をも正当化する危険性がある。
投資家もまた加害者となりうる
研究は、VC側のインセンティブにも注目している。VCは次のファンドを調達するために、投資先の好調さをアピールする必要がある。そのため、投資先の不正を見て見ぬふりをしたり、場合によっては黙認したりすることがある。VCと起業家が共犯関係を築きやすい構造は、双方にとって“都合のよい”ものと言える。
また、不正が発覚しやすいタイミングは、IPO前の大型調達(最終ラウンド)前後だ。この段階では投資家の監視が厳しくなるため、隠し事が露見しやすくなる。つまり、ある程度成功した後、次のステージへ進むときにリスクが顕在化するのである。
日本への示唆と防止策
日本でも近年、スタートアップ投資が急成長し、ユニコーン企業が続々と登場している。しかし、その裏側で同様の問題が起きていないとは言い切れない。日本のVCは比較的穏やかで、成長への圧力も緩やかだとされるが、海外からの大型投資が増えるにつれ、シリコンバレーと同じ構造が日本にも持ち込まれる可能性がある。
この研究が示す教訓は、成長の追求と倫理は対立するものではなく、むしろ長期的な企業価値を高めるためには倫理が不可欠だということだ。起業家には、スピードだけでなく誠実さをもって経営に臨み、投資家には、単なる資金提供者ではなく、企業の倫理文化を構築するパートナーとしての役割が求められる。
具体的な防止策としては、取締役会の独立性を高めること、内部通報制度を機能させること、VCと起業家の間に第三者による監査を入れることなどが考えられる。スタートアップの健全な成長を考えるならば、今回の研究結果を他人事ととらえるのではなく、自分たちの問題として向き合う必要があるだろう。
Full stack 技術者