ネズミ、天井崩落、濁った水──米政府の新オフィスが早くも「崩壊」? | WIRED翻訳
米連邦政府の新オフィスで、ネズミの侵入や天井の崩落、濁った水道水などが相次ぎ発覚。最先端の施設がなぜ? その背景と日本の教訓を探る。
公開日時: 2026年8月31日 7:06 · 更新: 2026年9月27日 22:48
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米国連邦政府の新オフィスに「異変」
米国の連邦政府施設を管轄するGSA(General Services Administration、連邦調達局)が新たに開設したオフィスが、早くも深刻なインフラトラブルに見舞われている。WIREDが入手した内部資料と関係者の証言によれば、ネズミの侵入、天井の一部崩落、水道水の濁りなど、新築とは思えないような問題が次々と報告されているという。
GSAは、米国連邦政府の「不動産管理会社」とも言える存在だ。政府機関が使用する庁舎の設計、建設、維持管理を一手に担い、全米で約8500棟の建物を管理している。そのGSAが、自らが整備した新しいオフィスで、これほど多くの不具合を抱えているのは極めて異例である。
明らかになった三つの主要な問題
1. ネズミの侵入
最初に報告されたのは、執務室や会議室でネズミが目撃されたことだ。職員によれば、夜間にオフィス内で「カサカサ」という音が聞こえ、翌朝には机の上に糞が残されていることもあったという。ビル管理会社は、配管貫通部の隙間が原因とみて、シーリング材のやり直しを進めている。
ネズミの問題は、衛生上のリスクだけでなく、ケーブルを噛み切られることでネットワーク障害や機器故障を引き起こす危険性もはらんでいる。こうした初歩的な見落としは、設計段階での「生物対策」の不足を露呈している。
2. 天井の崩落
さらに、ある会議室で天井の一部が突然崩落する事故が発生した。幸いにも会議が行われる前の早朝で、負傷者は出なかったが、現場にいた清掃員は「大きな音がして、粉塵が舞った」と語る。調査の結果、空調ダクトからの結露が天井裏にたまり、支持金具を腐食させていたことが判明した。
新築ビルでの結露事故は、設計上の湿度管理や断熱処理の不備が原因となることが多い。今回のケースでは、竣工後の試運転調整が十分に行われていなかった可能性も指摘されている。
3. 濁った水道水
最も深刻なのが、給水設備から茶色く濁った水が出ることだ。全フロアの洗面所や給湯室で確認されており、飲料水として使えないだけでなく、手を洗っただけでも異臭が残るという。原因は、配管内部の錆びと、工事中に混入した異物とみられるが、配管の材質選定にも疑問の声が上がっている。
現在、簡易的な浄水器を設置してしのいでいるが、職員からは「毎日ペットボトルの水を持参している」「健康が心配だ」という不安の声が聞かれる。水質検査の結果はまだ公表されておらず、GSAは「詳細な調査を実施中」とする声明のみを発表している。
なぜ新築オフィスで「老朽化」が起きるのか
これらの問題は、単に施工不良や手抜き工事があったというだけではない。背景には、政府調達の複雑さがある。GSAの入札プロセスは、最低価格落札方式が基本であり、価格優先で業者が選ばれることがしばしばだ。その結果、品質よりもコスト削減が優先され、設計や施工の段階での手抜きが生まれやすいという構造的課題が指摘されている。
さらに、維持管理の予算が当初から不足していることも問題だ。新築後は「取りあえず動いている」状態で、予防保全的なメンテナンスが後回しにされる。問題が起きてから直す「事後保全」では、このような事態が繰り返されるのも無理はない。
GSAはどうするべきか
今回の事態を受けて、GSAは「全面的な調査を実施し、必要な補修を速やかに行う」と表明している。しかし、根本的な対策としては、発注プロセスの見直しが不可欠だろう。値段だけでなく、性能や維持管理費用も含めた「ライフサイクルコスト」を重視した調達へと転換する必要がある。
また、ビルを「所有」するのではなく、「サービス」として捉える考え方も注目されている。民間企業では、施設管理を専門業者に委託し、一定の品質を保証させるPFI(Private Finance Initiative)方式が広がっている。米国の政府機関も、こうした手法を積極的に取り入れるべきではないだろうか。
日本の公共施設への教訓
日本では、公共施設の老朽化が叫ばれて久しい。高度経済成長期に建てられた庁舎や学校の多くが更新時期を迎え、建て替えや長寿命化の取り組みが進んでいる。一方で、新しく建てた施設が、この米国のような問題を起こすケースは、幸いにもそれほど多くない。
しかし、決して対岸の火事ではない。近年、日本でも「性能発注」方式が増え、発注者の意図が施工者に正しく伝わらず、設計通りの品質が確保できないリスクが指摘されている。特に、自治体のように専門人材が不足している現場では、監理体制が弱くなる傾向がある。
今回のGSAの事例は、「建てる」ことよりも「使い続ける」ことの難しさを改めて浮き彫りにしている。新築高層ビルの輝かしい外観に目を奪われがちだが、その内部で何が起きているのか。維持管理の重要性を再認識するいい機会ではないだろうか。
まとめ:施設の「一生」を設計する時代へ
ネズミ、天井崩落、濁った水。新築オフィスで相次ぐトラブルは、短期的な補修で解決する問題ではない。建物を計画する段階から、将来の維持管理や修繕までを見据えた「施設の一生」を設計するという発想への転換が求められている。
米国政府の失敗は、日本にとっても他人事ではない。公共施設を未来につなぐために、私たちは「建てた後」のことをもっと真剣に考えるべきだろう。
Full stack 技術者